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引っ越し余話──瀬織津姫談議の原郷へ

 名古屋事務所から遠野編集室までは、車のメータによれば約915キロあります。これは、中央・長野・北陸・磐越・東北自動車道を経由しての距離ですが、名古屋を五日朝10時過ぎに発ち、遠野着は夜11時過ぎでしたから、およそ13時間かけて走ってきたことになります。
 八六歳の自称「遠野のヤマンバ」には少し過酷な移動でしたが、本人は生まれ故郷に帰ってきたということもあり、いたってハイの気分を崩さずに遠野の初夜を迎えたのでした。諸国巡回の六部のように、瀬織津姫の手作りの祭壇を背負えるように工夫していたのには感心しましたが、部屋にはいると、まずこの祭壇を部屋の隅に設置して、「セオリちゃん帰ってきたね」などといいながらさっそく拝んでいます。
 信心の無さの極みを生きている自分ですから、彼女のような思い入れは自分にはありません。しかし、わたしにとって、瀬織津姫という神を知ったのは、あるいは出会ったのは、この早池峰─遠野郷においてでしたから、「帰ってきた」にはいくつかの意味がありそうです。
 おもえば、山神の名として、現在にまでその名を伝えている全国唯一の山が早池峰山で、これは、もう少し真摯に受け止めてよいことかもしれません。早池峰山を信仰の核とする周縁郷には、あたりまえのように瀬織津姫神の名を確認できるのに、一歩外に出ると、各地山岳霊地の祭祀表層からは「消された神」というのが実態です。南は九州から、北は北海道まで、小さな祠や家神祭祀が主流であるとしても、しかし、この神を守護し、また守護神としてきた多くの庶民の信仰的血脈は今も生きています。
 わたしにとって、瀬織津姫という神談議・探索は遠野からはじまりましたから、その意味で、ここは思考・思索の原郷といえるかもしれません。
 ともかく無事に辿り着いた──、と深夜の酒宴がはじまり、上のような瀬織津姫談議をサカナにヤマンバと酒を飲んでいるというのは、外からみたなら、かなり異様な光景かもしれません。色気も何もあったもんじゃないといえば、お互い様だといった軽口の応酬です。
 引っ越しのトラック便は半日遅れで到着するということで、翌日の午前中は時間が空いていましたから、市役所へ転入届け・印鑑登録をし、保険証・年金手帳の発行を受けるなど、日本国民・遠野市民といった一通りの戸籍登録の義務を終えました。ヤマンバは遠野市民となったことで感慨を覚えていたようですが、こういった事務的なことには、わたしの感動力はまったく反応しません。
 アパートは倉庫への道順の地にありましたから、すぐに使うものや本などの段ボール箱を途中下車で部屋に運び込み、当面使わないものについては倉庫に入れるということにしました。全体の荷量を極端に絞ったということで、引っ越し業者はドライバーの一人でしたから、わたしも荷運びを手伝うということになりました。本を詰めた箱は20キロ弱くらいの重さで、わたしは一箱持つのが精一杯でしたが、その担当者は一度に三箱持つという怪力の持ち主で、これにはびっくりしました。最初は、客に荷運びさせる引っ越し業者はありか?などとおもっていましたが、荷運びの力量の差は歴然で、文句をいう気分はすぐに消えました。
 1DKのアパートには40箱ほどを運び込んだものの、案の定というべきか、やはり狭い空間で、当面とはいえ、ここに同居人(本人は下宿人といっている)も暮らすわけで、この狭さの現実は笑うしかなさそうです。
 人は環境に応じて生活のフォルムをつくるもので、いわばヤドカリ的になるようです。無駄な空間をつくらないといった創意工夫をするしかなく、アイデアの出し合いで、ヤマンバも呆けているヒマはありません。どうにか寝るスペースを優先的に確保すると一段落で、あとは段ボール箱の本たちです。狭い廊下の半分をつかって積み上げ、残りは編集室として使っているDK(ダイニングキッチン)の六畳スペースに置くと、それなりの空間が確保できたようです。もっとも、これでは箱入りの資料を取り出すには少し難儀なのですが、それでも最低限の生活や仕事はできます。

遠野編集室◆20110606
▲少し片づいた編集室

 遠野の三日目の朝を迎えるまでに、小さな余震が何度かありました。3.11ほどの大地震は、少なくとも自分たちが生きている間はこないだろうと、あえて油断してみるしかなさそうです。
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