月の抒情、瀧の激情
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都会の小さな隠れ家【案】

▲「柿本人麻呂の木」の渋柿
不動産を「売る」というのは案外むずかしいもののようです。
名古屋の風琳堂倉庫事務所があるところは一応文教地区らしく(たしかに徳川美術館も近い)、また、近くには24時間営業のマックスバリュ(イオン)や郵便局などもあり、生活の利便性は高いからすぐに買い手は現れます──、これは仲介の不動産担当者のことばの要約ですが、しかし、いざ売りに出してみると、9ヶ月近くになろうかというのに、さっぱり現実化しません。
土地の相場からすれば安く公示しているのに買い手がつかない、見学にくる人は多いのに買おうという決断をしないというのには理由があります。なにも一家惨殺事件があったとか幽霊が出るというわけではなく、購買を躊躇させる理由は、どうやら土地の西側と南側の一部に高層のビルが境界いっぱいに建っていることにあるようです。
倉庫事務所は、このビルの日陰の約30坪部分を使用しているのですが、それとは別に、東には古民家に自称「遠野のヤマンバ」が一人で住んでいます。この東側の土地は49坪ほどでまだ明るいのですが、まとめて79坪の土地を売ろうとすると、西の日陰部分の土地が足を引っ張ることになり、商談がまとまらないということのようです。
東の古民家の庭の片隅には、渋柿の古木があり、特に肥料をあたえるわけでもないのに、多いときは千個ほどの実をつけます。富有柿と偽装表示してスーパーで売り出したなら、まちがって買ってゆく人はきっといるにちがいないという立派な実をつけます。干し柿づくりを希望する友人たちによく箱単位で送ったりしてきましたが、わたしはひそかに「柿本人麻呂の木」などと命名しています。
できれば、次に土地を買う人にも、この木を生かしておいてほしいという希望があり、見学者には、つい笑いながら「この木は名古屋でも有数の渋柿の銘木です」などと話すものですから、それも土地の購買意欲を減退させる一因だったかもしれません。
不動産の仲介担当者は「関係ない」と慰めてくれますので、この木のことはおいておくにしても、西の日陰の土地の問題は残ります。ビルのオーナー側に買い上げてもらうのがベストだろうと話をもっていっても、これも首を横に振るばかりでラチが明きません。
みんなから敬遠される土地に風琳堂(の名古屋事務所)があるというのは因果関係があるかもなと、超非論理的なことを考えるようになってきました。
しかし、現状を打開する方法がないはずはないと、土地の図面をにらんでいて、一つ思いついたことがあります。それは、みんなから嫌われている土地ならば、なにも無理して売らない、その活用を考えよということです。間口6メートル、奥行き18メートルというところで図面に線引きしてみると、これは典型的な「鰻の寝床」的イメージです。しかも、西と南は高層ビルの壁で、間口は公道に面するも北向きですから、お世辞にも使い勝手あるいは条件がいいとはいえません。さらに図面とにらめっこをしていてひらめいたのが「都会の小さな隠れ家」ということばでした。
最初は一階を駐車場、二階に事務所兼住居を考えましたが、これではどこにでもある発想ですから「都会の小さな隠れ家」にはなりません。ならばとおもいついたのが、「鰻の寝床」の最奥部の6メートル×10メートルほどにロフト付きの小さな一軒家(2DKくらい)を建て、前に屋根付きの駐車場、公道から玄関へのアプローチは石畳とし、モダンな路地のイメージをつくるという案でした。
こういった妙案あるいは珍案をおもいつくと、内装・水周りは高級マンションレベルにするとか、東面は朝の採光しか期待できない、視界の良好性も確保できないならば、そこに居るだけで落ち着く空間をどう創作するかということになります。
小さな家をつくるというアイデアの骨格はできましたから、あとは、東の土地の公示方法を変更するだけです。今度は、西側の嫌われ者の土地を切り離すことになりますから、まったく「新しい土地物件」ということになります。
こういった「都会の小さな隠れ家」をつくるのにどれほどの費用がかかるものかはさっぱり見当もつきませんが、自分にその資金があるわけではありませんから、これは、「新しい土地物件」がうまく売れてからのことになります。
なにも土地のことに限りませんけれども、あるモノに付着した一般的マイナスイメージをどう逆転・反転していくかということを考えるとき、ちょっと「燃える」自分がいるらしく、これは「性分」と呼んでいいのかもしれません。
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